若い人にも多い「酸蝕症」。酸蝕症になりやすい飲食物や生活の特徴は?

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歯科コラム/2021年10月26日

酸蝕症

皆さんは酸蝕症(さんしょくしょう)という病気をご存知ですか?初めて聞いたという人もいれば、名前だけ知っているという人もいるかと思いますが、具体的な症状が原因、今現在、酸蝕症が増加していることなどについては詳しくしらないことかと思います。
ここでは酸蝕症について、なりやすい飲食物や生活習慣などをわかりやすく解説します。

酸蝕症とは

酸によって歯が溶ける病気

酸蝕症とは、かんたんに言うと「酸によって歯が溶ける病気・現象」です。
私たちの歯は、酸性の刺激に弱い性質を持っているので、歯が酸にさらされやすい生活習慣があると、エナメル質・象牙質が徐々に溶けていきます。

虫歯とは違うの?

酸で歯が溶けると聞いて、まず頭に思い浮かぶのは「虫歯」ですよね。虫歯はミュータンス菌に代表される虫歯菌が歯に感染し、酸を作り出すことで歯を溶かしていく病気です。つまり、虫歯は細菌感染症の一種といえます。一方、酸蝕症は、細菌による関与がありません。虫歯菌が作り出す酸ではなく、食品などに含まれる酸性の物質が歯を溶かしていく病気なのです。

酸蝕症になる原因

逆流性食道炎

酸蝕症になる原因は、体の中から出てくる酸による内因性と、酸性の食品など外から取り込む外因性の2つに大きくわけることができます。

内因性の酸蝕症

内因性の酸蝕症は、主に胃酸が逆流してくることによって生じます。
例えば、過食症や拒食症で、嘔吐(おうと)をする機会が多いと、胃酸がお口を経由して体外へと出ていきますよね。その際、歯が酸性の刺激にさらされて、エナメル質が溶かされるのです。そうした摂食障害がある方は、酸蝕症にも十分注意しましょう。

もうひとつ、胃酸に逆流する現象としては「胃食道逆流症(GERD)」が挙げられます。胃と食道とのつなぎ目が狭くなるなどの異常によって生じる症状で、嘔吐反射も促されることがあります。その他、アルコールを大量に飲む習慣があって、頻繁に嘔吐する方も酸蝕症になりやすいです。

外因性の酸蝕症

外因性の酸蝕症は、酸性度の高い飲み物や食べ物を習慣的に摂取することが主な原因です。“酸性度が高い”といっても、お酢やレモンだけでなく、ジュースや炭酸飲料を始めとした清涼飲料水、ワインなども該当する点にご注意ください。とりわけ、スポーツドリンクは盲点となりやすいです。

スポーツドリンクで酸蝕症になる理由

スポーツドリンクはミネラルも同時に摂取できるため、夏場の水分補給には最適な飲み物といえます。透明で、口当たりも良く、体に良いとなると、頻繁にゴクゴクと飲んでしまいますよね。けれども、スポーツドリンクには大量の糖分が含まれているだけでなく、酸性度も比較的高いことから、飲むたびに酸蝕症のリスクが高まるのです。

酸性のガスを吸い込むことでも酸蝕症になる?

これは稀なケースではありますが、塩酸や硫酸、硝酸などのガスが発生する工場で勤務している人も外因性の酸蝕症になりやすいです。酸蝕症の原因となるのは、必ずしも液体ではないのです。おそらく、そうした環境で働かれている方は、職場の健康診断等で注意を促されていることかと思います。

酸蝕症の主な症状

歯に違和感を感じている表情

エナメル質が溶ける

酸蝕症で見られる主な症状は、歯質の溶解です。酸によって歯の表面を覆っているエナメル質が徐々に溶け出していきます。その現象自体は虫歯と変わらないのですが、歯の溶け出し方に違いが見られます。一般的な虫歯は、直径1~2mmくらいの狭い範囲からエナメル質が溶け出しますが、酸蝕症はその範囲が比較的広いです。歯の表面全体が均一に溶け出していくことも珍しくありません。

象牙質がむき出しになる

酸蝕症が進行すると、エナメル質の下に存在している象牙質がむき出しとなります。これは虫歯と同じですね。ただ、酸蝕症の場合は、歯が溶ける範囲が広いため、露出する象牙質も多くなり、歯全体が黄色く見えるようになります。つまり、審美障害まで伴うのが酸蝕症なのです。

知覚過敏になる

象牙質には、歯の神経が一部入り込んでいます。冷たいものや熱いものを口にすると神経が反応して、“歯がしみる”ようになります。いわゆる象牙質知覚過敏症ですね。また、象牙質はエナメル質ほど強くはなく、酸に対する抵抗力も弱いため、虫歯のリスクが大きく上昇する点もご注意ください。

酸蝕症が増加している背景

炭酸ドリンクと歯

清涼飲料水の過剰摂取

酸蝕症の患者さんは増加傾向にあるといえます。その背景には、食習慣の変化が潜んでいます。具体的には、清涼飲料水やスポーツドリンク、ワインといった酸性度の高い飲食物の過剰摂取ですね。ジュースや炭酸飲料を過剰に飲むことは、酸蝕症に加え、虫歯のリスクも大きく上昇させます。スポーツドリンクに関しては、少し厄介な面があります。というのも、全身の健康を考えた場合、スポーツドリンクをたくさん飲むことが推奨されることもあるからです。

夏場の水分補給にはスポーツドリンクが最適?

夏場は、たくさんの汗が出て、脱水症状による体調不良を訴える人が多くなります。深刻なケースは、意識を失うなどして病院に運ばれることもあります。そのため、脱水症状を予防するためにこまめな水分補給が何より重要となります。社会全体でも、夏場はナトリウムなども同時に取り込めるスポーツドリンクが水分補給に最善であるといわれがちです。もちろんそれは間違っていないのですが、頻繁に摂取するとお口の中が酸性に傾き、酸蝕症を促してしまいます。酸蝕症が増加している背景は、そのような社会的な流れ・動きがある点も知っておいてください。

酸蝕症の予防法

ここまで、酸蝕症の原因と近年増加傾向にある理由を解説してきましたが、それらがわかれば予防する方法も自ずと見えてきます。

内因性の酸蝕症の予防法

内因性の酸蝕症は、根本的な原因となっている摂食障害や胃食道逆流症を治すことが予防につながります。これらの病気は内科的な治療が必要となるため、まずは病院に相談しましょう。

外因性の酸蝕症の予防法

外因性の酸蝕症は、以下の点に気をつけることで予防しやすくなります。

酸性の飲食物を避ける

お酢やレモンなど、明らかに酸性度の高い食品は、できるだけ避けるようにしましょう。もちろん、完全に断つ必要はありませんが、口にする頻度を減らすだけでも、酸蝕症の予防につながります。お口の中のpHが高まると、脱灰現象が起こりやすくなります。

食後のうがい・歯磨きを徹底する

酸性度の高い食品を口にしても、そのあとしっかりうがいや歯磨きすることで、エナメル質が溶け出すのを防げます。

フッ化物を歯に作用させる

歯が溶ける現象である脱灰(だっかい)は、フッ化物によって予防できます。フッ素は歯の再石灰化を促すだけでなく、酸に対する抵抗力も高めてくれるからです。そのため、フッ素入りの歯磨き粉を使用したり、歯科医院でのフッ素塗布を定期的に受けたりすることが推奨されます。

唾液の分泌を促す

唾液には、酸性に傾いたお口の環境を中性に戻す作用が期待できます。専門的には“緩衝能(かんしょうのう)”と呼ばれるものです。さらに、歯の再石灰化を促す作用もあるため、唾液の分泌量を促すことは、酸蝕症の予防に大きく寄与します。ちなみに、唾液の分泌量は、唾液腺をマッサージしたり、食事の際によく噛んだりすることで増加できます。

まとめ

このように、歯が溶けるのは虫歯だけではありません。酸蝕症という病気によってもエナメル質が溶け出すことがあるため、十分に注意しましょう。そんな酸蝕症の症状が見られたら、できるだけ早く歯科医院を受診しましょう。対処が遅くなると虫歯などの病気が誘発されてしまいます。