インプラントができない人とは?その対処法と難しい症例に有効な治療法も併せて紹介
インプラントは、失った歯を歯根から回復できる優れた治療法です。近年はブリッジや入れ歯といった従来法ではなく、インプラントを選ぶ人が増えてきていますが、それはこの治療法によって得られるメリットがあまりにも大きいからです。
ただ、そんなインプラントも決して万能ではなく、適応できないあるいは適応が難しい症例というものも存在しています。今回はそんなインプラントできない人の特徴や対処法、インプラントが難しい症例に有効な治療法について詳しく解説します。
インプラントができない人
できない➀骨が薄い(骨粗鬆症である)
骨が薄かったり、骨密度が低かったりする場合は、インプラントできない可能性が高いです。インプラント治療には、顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込む外科処置を伴います。人工歯根は長さが10mm程度あり、周囲に健全な骨が十分に存在していないと適切に埋入することができません。とくに骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を患っている場合は要注意です。骨粗鬆症は、骨の密度が低下してスカスカになる病気なので、重症度が高い場合はインプラントできません。
対処法:骨造成術を行う
加齢や骨粗鬆症などで歯槽骨が薄くなっている場合は、骨造成術で症状の改善をはかります。GBRやソケットリフト、サイナスリフトなどを実施することで、インプラント治療が可能となる場合もあります。
できない②年齢が低い
インプラント治療は、一部の例外を除いて未成年に適応することができません。成長期にチタン製の人工歯根を埋め込んでしまうと、顎の発育を阻害する可能性があるからです。
ただし、先天性の病気を患っていたり、事故で大きな外傷を負ったりした際には、年齢が低くてもインプラントすることもあります。また、インプラント治療の年齢は厳密に制限されているわけではなく、歯科医院によっても「18歳以下」や「20歳未満」といった異なる形で区切りをつけているのが現実です。
対処法:顎骨の成長が止まるのを待つ
インプラント治療は、顎の骨の成長が止まってから開始するのが一般的です。そのタイミングは精密検査等を行ってみなければわからないため、気になる場合は歯科を受診しましょう。基本的には、顎の骨の成長が止まる大人になってから治療を始めることになります。
できない③歯周病や虫歯がある
重症度の高い歯周病や虫歯がある場合は、インプラントできないケースがほとんどです。とりわけ歯周病は、インプラントを失敗させる主な要因となっていることから、そのままの状態で治療をスタートさせる歯科医師は稀といえるでしょう。もちろん、歯周病が軽度であったり、インプラントを埋め込む部位とは近くなかったりする場合は、そのまま治療を行うこともありますが、その判断は歯科医師に委ねられます。
対処法:歯周病・虫歯の治療を先に終わらせる
歯周病や虫歯といった口腔疾患がある場合は、それらの治療を優先します。歯や歯茎を健全にした状態で、インプラント治療を開始します。
できない④糖尿病を患っている
糖尿病にかかっていると、血糖値が上がりやすく、免疫力や抵抗力は低下します。そのため糖尿病患者さんは傷口の治りが遅かったり、歯周病にかかりやすかったりするのです。これは外科手術が必須となるインプラント治療において、非常に大きなリスクファクターとなることでしょう。仮にインプラント手術が成功したとしても、インプラント周囲炎という歯周病にかかってしまったら、治療そのものが失敗に終わります。
対処法:血糖値をコントロールする
糖尿病患者さんでインプラント治療を検討されている方は、まず内科の主治医に相談しましょう。病気の状態によっては、お薬などで血糖値を許容範囲内にコントロールする方法があります。インプラント手術はそこまで大掛かりな外科処置ではないことから、必ずしも糖尿病を完治させる必要はありません。インプラント手術可能な状態に血糖値をコントロールできれば、歯科医師もゴーサインを出すことでしょう。
できない⑤妊娠中である
妊娠中の女性は、インプラントできないことはありませんが、避けた方が望ましいです。インプラント治療には、レントゲン撮影・CT撮影・外科手術・投薬などを伴うだけでなく、治療期間が半年以上、長ければ1年近くかかることもあります。そうした治療を妊娠期間中に受けるのは賢明ではありません。そのため多くの歯科医院は、妊婦さんにインプラント治療をおすすめすることは少ないでしょう。
対処法:出産後にインプラント治療を受ける
妊娠中の女性は、出産後にインプラント治療を受けると良いでしょう。出産直後は、母子ともに不安定な状態となるため、いろいろな面で落ち着いてから歯科を受診するのがおすすめです。妊娠中は歯がないことで不便を感じる場面も多くなるかと思いますので、その間は着脱式の入れ歯で対応すると良いでしょう。入れ歯は妊娠中でも作れます。
できない⑥ヘビースモーカーである
タバコは、歯周病のリスクを大きく上昇させます。インプラントの天敵である歯周病にかかると、苦労して埋め込んだ人工歯根が脱落してしまうことから、ヘビースモーカーの人はインプラント治療を諦めた方が良いといえるでしょう。毎日たくさんのタバコを吸っている場合は、そもそも歯周組織の状態が悪くなっており、インプラント手術自体、失敗に終わることも珍しくありません。
対処法:禁煙する
ヘビースモーカーの人でインプラント治療を希望されているのであれば、今日からでも禁煙しましょう。タバコを吸う習慣を改善できない限り、インプラント治療を行うことは難しいと考えるべきでしょう。
できない⑦腎疾患があり血液透析を受けている
腎臓に病気にあって血液透析を受けている人は、基本的にインプラント治療できないといえます。重度の腎疾患を患っていると、免疫力が低下し、傷の治りも悪くなっているからです。細菌感染のリスクも高くなっており、インプラント手術に耐えることが難しいです。
対処法:他の治療法を検討する
血液透析を受けている腎疾患患者さんは、インプラント以外の治療法を検討すると良いでしょう。一方で、比較的軽度の腎疾患であれば、インプラント治療できるかもしれませんので、内科の主治医と相談してください。歯科医師と連携した上で、対処法を考案します。
できない⑧麻酔を使用したくない
注射に伴う痛みなどが不安で麻酔をしたくないという場合は、インプラント治療はできません。麻酔なしで外科手術を行うことは不可能だからです。
対処法:痛みの少ない麻酔法を選択する
歯科麻酔は、工夫次第で痛みを和らげられます。事前に表面麻酔を施すことで、注射による痛みは取り除けます。極細の針を使用したり、電動麻酔器で注入速度を一定に保ったりことでも麻酔処置に伴う痛みは軽減可能です。
できない⑨メンテナンスに通えない
仕事が忙しくて治療後のメンテナンスに通えないという人は、インプラントをおススメできません。インプラントには、3~6ヵ月に1回メンテナンスが必須となっているからです。治療後のメンテナンスを怠ると、装置の故障やインプラント周囲炎の発見が遅れるだけでなく、インプラントの保証も受けられなくなります。
対処法:頑張ってメンテナンスを受ける
インプラントのメンテナンスは、それほど高頻度に受けるものではないため、頑張って時間を作りましょう。メンテナンス自体は1時間程度で終わることがほとんどです。メンテナンスでは、インプラントのクリーニングを受けたり、正しいセルフケア方法を学んだりすることもできます。インプラントを長持ちさせるためにも、定期的なメンテナンスは欠かさないようにしてください。
難しい症例に有効な治療法
顎の骨が薄かったり、少なかったりするなどの難しい症例では、次のような処置を施すことでインプラント治療ができるようになります。
治療法ソケットリフト
上顎の奥歯に軽度の骨量不足が認められるケースで適応されます。骨が不足している部分に人工骨や補填剤を入れて、骨の再生をはかります。インプラントを埋め込む方向からアプローチします。骨造成のためだけに歯茎を切開したり、顎の骨に穴を開けたりする必要がないので、心身にかかる負担も比較的少ないです。
治療法サイナスリフト
ソケットリフトよりも骨の不足量が多いケースに適応される施術法です。顎の側面からアプローチする点は、ソケットと異なります。骨造成のために歯茎の切開などが必要となるため、心身への負担が大きくなります。ただ、重症度の高い症例でも骨をしっかりと再生できる点は、非常に大きなメリットといえます。骨の不足が大きくてインプラントは無理と断られた場合でも、サイナスリフトに対応している歯科医院なら、適応可能となるケースも珍しくありません。
治療法GBR(骨組織誘導再生法)
いろいろな部位の骨不足を解消できる治療法です。特殊な材料を不足部位に填入して、骨の再生をはかります。汎用性が高く、さまざまな症例に適応可能です。
治療法ソケットプリザベーション
歯を抜いた部分に人工骨や骨補填剤を填入する治療法です。身体への負担が少なく、抜歯後の骨吸収を防ぐこともできます。
治療法スプリットクレスト
前歯の顎の骨の厚みが不足している症例に適応される手術法です。顎の骨を分割してすき間を作り、そこにインプラントを埋め込み、骨補填材を填入します。その他の治療法と比較すると、心身への負担が軽いといえます。インプラントの埋入を骨造成と同時に行う点もやや特殊な施術法といえるでしょう。